弓張岳の中腹に住んでいた僕にとって、自転車に乗ることは未知の世界に足を踏み入れることに近い。
その日はまだ2月だというのに20度近いポカポカ陽気。暖かい空気にそそのかされて、自転車に乗って下北沢あたりまで買い物に行こうという気になった。東京に引っ越して間もない頃にもらった、折りたたみ式自転車を引っ張り出す。空気が入ってなかったが、近所に自転車用の空気入れが設置してあるのを思い出し、満タンにしていざ出発!!
デニーズやローソン、商店街たちが次々と僕の後へ流れていく。一生懸命漕ぎながらも、風を切るのは気持ちがいいなあと思っていた矢先、他の自転車たちにびゅんびゅん追い越されていくではないか!何故だ!やはり所詮は折りたたみ式自転車。タイヤは太く、車輪は小さい。漕いでも漕いでもママチャリ軍団に追い越されていくのである。
しかしそこは負けず嫌いの自分。火が点いてしまい「この自転車で原宿まで行けるのか?行ってやろうじゃないか!」と自分に挑戦状を叩きつけ、自分で受けることにしたのだ。目的変更!
……僕は東京の街をなめていた。本当に。ものすごいアップダウン。これでもかと続く坂道。東京ってこんなに凸凹だったのか。へとへとになりながらもなんとか原宿まで着きはしたのだがすっかり日も暮れて、帰りの坂道を想像すると寒気がして、原宿表参道で途方に暮れることになる。サイクリングは計画的に…(松本健太)